左手ちゃんの日記

すぐしにたくなっちゃう人の日記

タバコの匂い

匂いと好きという感情は結びついてるとどこかで聞いたことがある。

 

今私には好きな人がいる。

その人はタバコを吸う人だ。なんでタバコを吸うのか聞いたら、長年吸ってきたから吸わないともう落ち着かないらしい。ルーティーン化しているから、朝イヤホンを忘れると私が一日中落ち着かないのとおなじで、吸わないとそわそわしてしまうらしい。

ただ、棒ならなんでもいいみたいだから、お菓子ならダメなのかと聞いたら、すぐなくなってしまうからダメだそうだ。なんとなく、かわいい人だと思った。

 

この辺の話はにおいとは無関係なのでどうでもいい、よくもないけど。

 

私は生まれてこの方、タバコの匂いについていい匂いだと思ったことがなかった。むしろくさくて不快で迷惑なものだとずっと思っていた。

それにはそこそこちゃんとした理由があって、父親がタバコを吸う人だった。それも毎日のように台所で吸うのだ。私にはそれが信じられなかったし、迷惑を顧みないその姿勢がとても嫌だったし、何より喘息持ちの母親や家族に迷惑をかけてのうのうと生きている父のことが嫌いだった。タバコを吸っていたせいなのか、酒をアホみたいに飲んでいたせいか、臓器を壊して入院して、1度植物人間のような状態になったこともあった。タバコやお酒や謎の買い物のせいで、私のために使われるはずだった学資保険金を全て使い込み、クレジットカードで3桁を超える借金をしても、それでもあいつがタバコを辞めることはなくて、私はずっとずっと苦しかった。タバコを見るのも嫌だった。誰が吸ってたって同じで、タバコという存在自体が悪者なんだって、そう思い込みたかった。

 

しばらく会っていないので今の状況はなんとも言えないが、今父親は、てんかんを患っていて、記憶の整合性が取れない時がある。ただ最近母親に会った時、また会社を無断欠勤したという話を聞いた。

酒を飲んで私たちに怒鳴っていた怪物のような姿はすっかり小さくなって、今はなぜあんなものに怯えていたのか自分でも分からない。社会人になって自分が1人でも生きていけることが判明してから、両親は小さく見えるようになった。父親は多分いつ死んでもおかしくない。きっと私たちにしたことも忘れて、反省もせずに死んでいくんだろう。

 

父がこの先死んだとしても、私は悲しくならないのではと不安に思うくらい、私は父のことが嫌いで、それと同じようにその父が吸っているタバコの匂いが嫌いだった。

 

でも、好きな人のタバコの匂いはなぜかとてもいい匂いに思えた。

それは私にとって革命だった。22年間生きてきて、タバコの匂いがいい匂いだと感じたことなんて1度もなかった私にとって、世界の色が変わったような、そんな感覚だった。

好きになった人は、父親とは比べるのも失礼なくらい、優しくて素敵な人だ。タバコを吸うけど、吸う前にちゃんと吸っていいか確認をとるし、その人がタバコを吸っているところを、横から眺めるのが好きだ。好きな人の好きな物だから、なんでも素敵に見えるというのもあるかもしれないけど。

人を好きになったおかげで、少なくともタバコ自体が悪いのではなくて、吸っている人間(ここでは父親)の振る舞いが嫌なのだということに気づくことができた。

 

好きな人のタバコはいい匂いがする。今はそう感じられることが凄く嬉しい。ありがとう好きな人。今日もマルボロを見かける度に、あなたの名前を思い出しています。